(1) 坂の数

 私は名前の付いた坂だけを対象にして、坂と付き合ってきた。だからとても姿の良い坂と行きあっても、坂名がないとわかると、知らん振りして行き過ぎることが多い。

 東京の坂を系統だって正式に歩き始める少し前に発行された、横関英一さんの「江戸の坂東京の坂」1970年発行)では、江戸時代に名前の付いた坂304坂と明治以降に命名された129坂合わせて433の、区部の坂の表が付いていた。即ち433坂が歩く目標だったわけだ。

 当時は坂側に道標や案内板がめったに付いていなかったので、似たような坂が並んでいたりすると、近所の古そうな商店などで聞いて坂名を特定した。結構、横関さんや石川さんの本に載っていない坂があらわれたりして、坂のリストは段々増えていったものだ。だが増えた坂は殆どが明治以降に名前が付いた坂で、江戸時代からの坂の数はめったに変わらない。東京区部の坂の数は写真集を出した頃1994年)に540位、3年前に新しい表を作った時に650くらいになった。その後に人から新しい坂のニュースを聞いてももう歩かないことにした。

くたぶれました!?。

 写真集ができて、東京の坂歩きを休んで、日本の坂を回ろうと思ったとき、地方の都市の名前のある坂を調べたら、その数の少なさに驚いた。長崎市で幾つ、尾道市で3つ程、函館市で20くらいしか坂名が確かめられなかった。

 現在昭文社の区分地図には坂名が割合しっかり記載してあるが、10年前には殆ど載ってなかった。ところがどういうわけか国土地理院の地図に長崎市と函館市の2都市だけが20あまりの坂名がちゃんと記してある。そこで日本の坂歩きは、長崎市、函館市でスタートした。

 いろいろな方法で、いろいろな調べかたをして、西から長崎市22、広島市1、尾道市5、京都市5、金沢市30、伊香保町8、沼田市8、鎌倉市5、東京都下42、佐倉市8、函館市24、小樽市12などの坂を写真を撮って回った。長崎、尾道、金沢、鎌倉、佐倉、函館などは2回歩いたが、回りきれなくて写していない坂が20程残っている。

 隣の横浜市は、野毛坂と地蔵坂位しか東京で分からなかったので後廻しにしていたが5年程前に第一回をスタートしたら区分地図にも坂名が記載されるようになり、今春、十何回か通って83坂を取材、撮影することが出来た。

 あとは多分大物とみているが、東京では坂名が殆ど特定できない、神戸市に行くことが残っている。

 名前のある「坂」の数では東京が圧倒的に多い。2位くらいの10倍ちかくもある。日本ばかりではない。20年ほど昔、海外に遊びにいくチャンスが何回かあり、ちょうど坂歩きをしていた頃なので、××スロープなんて坂がないかと注意をはらったが、××街通りの一部が坂道だ。という感じの扱いで、特に取材してはこなかった。

 東京が日本一、いや世界一の「坂の街」なのである。

中村 雅夫

トップページへ