(6) 新年から初春の坂

中村 雅夫

 暮れから新年にかけて、何十年ぶりかの酷寒が続いている。高知・鹿児島まで雪が降って、日本海側では大雪で騒いでいるが、東京では寒い一方のからから天気である。

 人や建物・施設が密集するそんな東京にも、ささやかな四季がある。

 正月三ケ日は自動車の交通が都内では激減するので、1月2日・3日には、天気が良ければ東京から富士山が見えることが多くなる。東京から山頂が見られる只一つの「富士見坂」と言われる西日暮里の富士見坂へは、ひと冬に一回位は見に行きたい。

 大田区田園調布一丁目を多摩川の方へ下りる富士見坂からは、今でも富士山は見えるのかしら。誰かに教えられた記憶はあるのだが、思い出せない。一遍、天気の良い冬の日に行ってこなくちゃ。大塚の富士見坂は、今は、バスからチラッと裾野を見て通るだけ。

 10年程前、東京で30cm近い雪が降った。東京では30cm降ったら大雪である。豊島区高田にある「のぞき坂」では大雪が降ると、翌日除雪作業をせずに一日交通止めをして、子供のソリのゲレンデとして開放したことがあった。10年程前降った時、「もしか」と思って出かけて、オリンピックの入賞選手よりも良い顔で滑り降りる少年・少女たちを写真にしたことがあった。今はどうしているのか?雪の急坂は歩くのが大変だが。

のぞき坂    (井手のり子)
のぞき坂   (中村雅夫)
      「東京の坂」晶文社より

 まもなく梅の季節になる。本郷・湯島天神の梅は有名だが、この時期雪もよく降る。だいぶ前、2・3月の境あたりで良い雪が降って、「女坂の梅と雪だっ!」というので、おっとりカメラで出かけて、見事に滑って転んで、3日ほど寝込んだことがあった。写真はまあまあのが残った。それから梅と雪の湯島天神には行っていない。

 梅では他に皇居・東御苑の梅林坂が綺麗だ。が、カメラマンが多すぎる。そういえば、梅の季節の湯島天神も、受験期の参拝者が多い。

  梅の他にこのシーズンは、つばき・すいせん・ふくじゅそう・まんさく・ねこやなぎ・ぼけ・さんしゅゆ、と花は続いて春となるが、坂との繋がりは浮かんでこない。

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