(7) 東京の坂の初夏

中村 雅夫

花見の季節が終わって、東京の初夏に入ってゆく。

【A】御殿坂網干坂に挟まれた小石川植物園(文京区白山3丁目)は「ハンカチのき・はなずおう・なんじゃもんじゃ」など特色あるこの季節の花を4月下旬頃咲かせてくれるので、行き甲斐がある。ほかに、植物園の門を入って坂を上がった所にある「つつじ」は、小じんまりとして、奇麗な赤い花で出迎えてくれる。僕のひいきの「つつじ」だ。植物園には、良い「つつじ」が、園内あちこちにある。
【B】」「つつじ」 といえば、S字坂と根津裏門坂の根津神社(文京区根津1丁目)の境内西斜面の「つつじ」が東京では有名。S字坂の途中から塀越しに覗くと良い写真が撮れる。4月終わりから5月上旬に行くとよい。
 

【C】 坂そのものに咲く花では、さいかち坂(千代田区駿河台2丁目)の 「とちのき」が5月10日頃に見事に咲く。坂の道筋にぎっしり並んで、ピンク・白の花を付ける。坂名のもとになった「さいかち」の木は坂上JR線路側に2本あって、5月下旬地味な花を付ける。「さいかち」の木にはトゲがあるのですぐ分かる。

【D】この頃になると、あちこち「ばら」が咲き競い始める。大炊介坂を上がった旧古河庭園(北区西ヶ原1丁目)の「ばら」が5月半ば頃から咲く。ここでは花と建物との調和が勝れている。お向かいの蝉坂を下りると上中里駅に出る。

 

 さて、花をちょっと離れて、初夏の江戸→東京の行事を見てみよう。欠かせないのは『天下祭り』である。明神坂の神田明神(千代田区外神田2丁目)が5月15日に、山王坂男坂女坂切通坂を持つ日枝神社(千代田区永田町2丁目)が6月15日に、それぞれ大祭となっている。徳川時代、一年交替で江戸城へ入ったのを天下祭りと呼ぶとのこと。だから今でも、本祭りは隔年でやっていると聞いている。

【F】これらの季節が過ぎると梅雨が近くなる。6月に入って白山坂の白山神社(文京区白山5丁目)に「あじさい」が咲く。今はあじさいの名所になっているが、歴史は20年くらいで古くない。催しは時代がっかてなくて、若々しい。そこがまた悪くない。
 


【G】三崎坂(さんさきざか)中ほど北側に全生庵(台東区谷中5丁目)というお寺がある。このお寺の欄干前に「たいさんぼく」が植わっている。「たいさんぼく」は東京でもあちこちにあって、大きくて真っ白の花の香りがつよくて、目立つ花だが、そばへ行くと見上げるようになる。ところがここの全生庵の「たいさんぼく」は、欄干から見下ろす位置に花を咲かせてくれる。僕は昔見つけた頃は人に教えず、一人にやにやして写真にしたもんだった。もう5年以上行ってないので、現在は昔通りではないかも知れない。
 

以上に書いた場所の廻りには他の坂がいくつかある。坂を歩くとき、行事や花に組み合わせて回ると、又ひとつ楽しみが増えると思う。花は年によって10日くらいは早くなったり、遅くなったりするので、研究と努力と運を味方に付けないと、一番いい日にはお目にかかれない。それが又面白いのです。

06・3・30記
写真・中村雅夫

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